2023年10月からインボイス制度が始まったことに加え、2024年1月から電子帳簿保存法が改正されるなど、企業のバックオフィス業務をめぐる状況は大きく変化しています。導入から一定期間が経過したこれらの制度の実態調査結果をまとめておきます。
インボイスの導入により約8割が事務負担増
令和5年(2023年)10月から「適格請求書等保存方式」いわゆる「インボイス制度」が始まりました。個人事業主でも法人でも開業(設立)後、最初の2期は消費税の免税が認められています。創業初期は金銭的にも厳しい時期が続くことが多いですから、消費税の免税は経営にあたり大変助かります。しかし、インボイス制度の適用で恩恵を受けることが事実上難しくなりました。消費税の納付は原則として、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いた分を納付します。これを「仕入税額控除」といいます。この仕入税額控除を利用するためには、支払った先が消費税の課税事業者である必要があります。免税事業者の場合は仕入税額控除を利用することができません。(ただし6年間の経過措置あり)つまり、取引先が課税事業者か免税事業者かで、消費税の額が大きく変わってきます。そうなると「うちは課税事業者としか取引しません」という企業が増えることが予想されます。「事業を始めたばかりだから、最初の2期は消費税を納めなくていい」と考えていたところ、そもそも取引してくれる企業がなくなってしまうと売上は立ちません。それでは本末転倒ですので、今後は創業当初から消費税の課税事業者になることを検討せざるを得ないでしょう。経営計画や予算に大きく影響することなのでしっかり事前に検討しておきたいポイントとなります。
2024年に日本・東京商工会議所が行った実態調査によると、制度導入前に免税事業者だった事業者のうち、企業間取引(BtoB)を中心に行う事業者でインボイス発行事業者へ登録した割合は73.3%に達した一方、消費者向け取引(BtoC)中心の事業者の登録割合は24.9%に留まっています。今後の登録意向についても、インボイス発行事業者への登録を行わなかったBtoB事業者の64.0%が「登録を検討」と回答したのに対し、BtoC事業者の69.5%が「登録申請を行わない」としており、事業形態による対応の二極化が顕著となっています。なお、インボイス登録を見送った主な理由は、新たな事務負担や税負担の発生が約半数を占めています。
制度導入による影響については、約半数が「コスト増ある」、約8割が「事務負担増あり」と回答しています。具体的にはコスト面では「既存システムの改修」が32.4%、事務負担では「仕入先の登録状況の確認・管理」が66.0%で、それぞれ最も高くなっています。現場からは「貴重な時間を奪われている」「税負担と事務負担が大きい」という不満の声が上がっています。また、いわゆる「2割特例」が終了した後の事業継続を不安視する声もあり、特例措置の恒久化や拡充を望む意見も散見されます。
一方で、専門家のサポートでスムーズに導入できたという声もあり、支援の重要性が伺えます。
改正電子帳簿保存法への対応 企業規模で浮き彫りになる格差
一方で、改正電子帳簿保存法の対応状況については、企業規模による明確な差が見られます。今回の改正では、帳簿書類を電子的に保存する際の手続きなどについて抜本的な見直しがなされており、2024年1月1日以降に電子取引でやりとりした書類のデータ保存が完全に義務化されました。
日本・東京商工会議所の調査によると、売上規模が小さい企業ほど「制度をよく理解できず未対応」の割合が高く、一方、売上規模が大きい企業では「電子帳簿保存」や「スキャナ保存」への移行が着実に進んでいます。また、改ざん防止措置や検索機能の確保といった技術的要件への対応に苦慮している実態も浮かび上がっています。
こういった企業規模による対応状況の沙は、各企業のバックオフィス業務の体制に関連している可能性が高そうです。例えば、売上高1千万円以下の小規模事業者では、経理事務について約3割が「すべて社内で対応」と回答しているほか、約9割が「1人で従事」かつ8割が「専任の経理事務担当者がいない」としており、新制度の導入や制度改正に対応するための社内リソースの捻出が難しいことが伺えます。加えて、事業規模が小さくなるほど請求書や帳簿を手書きで作成する割合が高く、デジタル化への対応が遅れている現状があります。こういった小規模事業者ならではの事情により、小規模事業者には電子化対応の負荷が特に大きくなっている可能性があります。そのため、小規模事業者に対する支援体制の充実が今後の課題解決のカギとなりそうです。制度の定着に向けては、きめ細やかな支援の継続が不可欠と考えられます。