皆さんは会社の設立というと、どのようなものを想像されるでしょうか?

株主が出資し、株を取得するという「株式会社」を想像される方が多いのではないかと思いますが、日本の会社には株式会社以外の形態の会社も多くあり、その数は今は設立できなくなった有限会社を含めると5種類にもなります。

2006年5月の会社法施行までは株式会社と有限会社を「物的会社」、合名会社と合資会社を「人的会社」と分けていましたが、今は株式会社以外の合同会社、合名会社、合資会社を「持分会社」と呼んでいます。

株式会社とは

言わずとしれた会社の代表的な形態で、日本で最も多いポピュラーな会社形態と言えます。法人としての知名度も抜群で信用度も高いのですが、色々と法規制がかけられていますので注意が必要です。

事務助

従来、発起人(会社設立時の出資者)は7人以上必要である、資本金は1,000万円以上必要であるなどの規制がありましたが、順々に規制緩和が進み、今では発起人は1人以上、資本金も0円や1円から設立できるようになりました。このように、従来に比べると格段に制約は減りましたが、とはいえ他の会社に比べると依然として制約が多いのも事実です。

例えば、会社設立時には会社の根本的なことを定めた定款を作成しなければなりませんが、株式会社の定款には公証人の認証手続きが必要になります。これは合同会社・合名会社・合資会社にはない手続きです。

また、取締役や監査役の任期は株式譲渡制限のある会社であれば最長10年、そのような制限のない会社であれば任期は2年となります。要は2年や10年の任期が来る度に、運転免許の更新のように役員変更の登記をしなければなりません。ちなみに12年間、登記をしないでおくと休眠会社の扱いとなり、登記の記録が法務局によって抹消されてしまいます。このような制限も他の会社にはない特徴となっています。

他にも、決算公告や利益が出たときの株主への配当の制限など色々ありますが、他の会社に比べて制約が多いのが特徴となっています。

また出資をすれば株主になり、会社に対して株主総会などで議決権を行使する形で経営に参加し、会社に利益が出れば利益の配当が受けられます。
ただ、会社の経営全てに参加することはできず、法律や定款に決められたことだけに留まります。逆に、会社が倒産したような場合は債権者から請求を受けることはなく、出資したお金が返ってこないだけということになります。出資したお金を会社から返してもらうことはできず、そのお金を回収したければ他にその株式を譲ることで投資したお金を回収していきます。専門用語では「所有と経営の分離」という形となり、所有は会社の実質的オーナーを指すのに対し、経営は役員等が当たる形となり、株式会社はこのような役割分担が徹底されています。

メリット
①法人としての知名度が高い
②信用度が高い
③大規模な運営が可能

デメリット
①会社の設立時のコストが高い
②役員の任期があり、その都度更新登記が必要
③登記を放置しておくと、抹消されるリスクがある
④その他、法律で様々な規制がある
⑤株主は会社の全ての事柄に口を挟めるわけではない


合同会社とは

合同会社は2006年の会社法施行と共に生まれた法人形態で、今回紹介する法人形態の中では一番若い法人形態となります。アメリカではLLCと呼ばれることが多く、日本では日本型LLCとも呼ばれています。
株式会社の良いところと、後にご紹介する合名会社・合資会社のメリットを両方取ってできた法人形態とも言えます。

株式会社と同じで資本金はありますが、何円以上という制約はありません。また、会社法や他の法律で色々と制限が多いのが株式会社ですが、合同会社は株式会社に比べて定款で色々定めることができ、柔軟な内部設計が可能となっています。また株式会社と違って、設立登記をするときに公証人の認証も不要ですので、金銭面でいうと株式会社の設立には登録免許税が最低でも15万円は必要ですが、合同会社の場合は6万円で済みます。
出資をすると、合同会社の社員という形になります。ちなみに社員とはその会社の従業員のことではなく、会社に出資をした者のことを指します。株式会社の株主との違う点は、株式会社の株主の場合、一定の事項のことしか議決できないのですが、合同会社の場合は経営全般に参画できます。また、その会社から離れる場合(法律用語では「退社」といいます)には、株式会社と違って出資した金額を払い戻してもらうことができます。不運にも会社が倒産してしまったような場合は、債権者から直接請求を受けるようなことはありません。

メリット
①株式会社に比べて自由度が高い
②設立時に定款の認証は不要
③設立時の負担が株式会社に比べて低い
④出資者の責任は有限
債権者の請求を受けることはない

デメリット
①株式会社より認知度は低い
②出資者が会社から離れると、払戻をしなければならない場合がある


合名会社とは

会社法が施行されて合同会社の設立が認められるようになり、ますます見かけなくなったように思われますが、合名会社の特徴は合同会社と同様に、広く定款による運営が認められている点が挙げられます。そのため、株式会社に比べて規制が少なく柔軟な設計ができますが、合名会社の出資者、いわゆる社員には重い責任が伴います。法律用語でいうと無限責任を負うということになります。

先の株式会社や合同会社の出資者は間接有限責任という形態で、具体的には、出資したお金が返ってこない、会社の債権者からの請求を受けることはないという形態なのですが、合名会社の社員は会社の債権者から直接請求を受ける、それも責任の範囲は無限となります。この形が敬遠されて合同会社や後で紹介する合資会社という法人形態が生まれたように思います。
出資者はそのような重い立場を負いますから、会社の運営全般に携わることができます。
そして無限責任社員の有り様がそのまま会社の運営に反映されていきますので、社員としての立場の譲渡は他の社員全員の承諾が必要となります。また社員の立場を譲渡してその会社から離れたとしても、一定の範囲での責任は伴います。

メリット
①定款で柔軟な会社設計ができる
②強いて言えば、希少価値が高い

デメリット
①責任が非常に重い
②責任の重さから、社員の募集が難しい


合資会社とは

合資会社は一言で言うと無限責任を負う出資者と間接責任を負う出資者とで成り立つ会社です。そのため、他の株式会社や合同会社、合名会社と違って出資者が2人必要となり、合名会社と同様、あまり見かけない法人形態です。

無限責任社員の法的立場は先の合名会社と同じですが、有限責任社員は株式会社や合同会社の社員と違って責任は有限であるものの、債権者に対して直接請求を受ける立場にあります。その責任の範囲は出資した価額の範囲です。

例えば出資額が100万円である有限責任社員が既に70万円の出資をしているときは、あと残りの30万円について会社債権者から直接の請求を受ける立場にあるということです。かつては合資会社の無限責任社員は経営の全般に携われるのに対し、有限責任社員は全てに携わることはできないという規定になっていましたが、会社法施行により業務執行権限面での区別は無くなりました。
また社員の立場の譲渡についてですが、無限責任社員と業務を執行する有限責任社員は他の社員(有限責任社員も含む)全員の承諾が、業務を執行しない有限責任社員については業務を執行する社員の承諾が必要となります。合資会社を離れても一定の範囲の責任を伴うのは合名会社の場合と同様です。

メリット
①定款での柔軟な運用が可能
②合名会社と同様、希少価値はある

デメリット
①無限責任社員の法的責任は重い
②最低でも2人必要
③有限責任社員も債権者から直接請求を受ける立場にある


有限会社とは

有限会社はかつて有限会社法という法律で規律されていました。現在もよく見かけますが、現行の会社法下で新たに設立することはできません。

会社法施行前の株式会社は資本金が1000万円必要でしたが、有限会社の最低資本金は300万円だったこと、また取締役等の役員の任期はありませんでしたので、株式会社よりもハードルが低く、設立しやすい存在であったと言えるかもしれません。ただ株式会社と違って、出資者は50人までという制約がありました。では有限会社は今後抹消されてしまうのかというと、有限会社は新たに設立することはできませんが、いま存在している会社については抹消されることはありません。総会での議決権や役員の任期等は旧有限会社法の規律に従っていますが、特例有限会社として株式会社と類似の存在として扱われています。出資者としての権利の譲渡も、総会の決議等の内部的な要件が必要ですが、概ね株式会社の株式の譲渡と同じ扱いです。

<特徴のまとめ>
①現在は設立できない
②株式会社とほぼ同じ扱いを受けている


あとから会社の種類を変えられる?

かつては株式会社と有限会社、合名会社と合資会社の間でのみ組織変更が認められていました。具体的には株式会社が有限会社に変更する、または合資会社が合名会社に組織形態を変えるというようなことです。ただ合名会社から株式会社へ、株式会社から合資会社への変更は組織形態が違っていたため、認められていませんでした。

現在、株式会社、合同会社、合名会社、合資会社の間で組織変更して新形態の法人にすることは可能になっております(有限会社は株式会社にのみすることが認められています。株式会社等から有限会社への変更は認められていません)。

ですので、会社の成長度合いに応じて会社の種類を変更することも視野に入れて置いてもよいかもしれませんね。例えば、手軽につくりやすい合同会社からスタートし、事業規模が大きくなってきたので株式会社へと種類を変更するというやり方もOKということです。

それぞれの会社には特徴があり、メリットデメリットがあります。現在考えておられる事業と今後の事業展開を検討し、どの法人が最もふさわしいのかを検討してみてくださいね!

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